「生活扶助基準に関する検討会報告書」が正しく読まれるために

2007年12月11日

「「生活扶助基準に関する検討会報告書」が正しく読まれるために」

「生活扶助基準に関する検討会」委員

(座長)慶應義塾大学商学部 教授 樋口 美雄

首都大学東京都市教養学部 教授 岡部 卓 

早稲田大学法学学術院 教授 菊池 馨実

慶應義塾大学経済学部 教授 駒村 康平

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部 教授 根本 嘉昭

(説明をなぜ、改めて行なうのかの趣旨)

・ 「生活扶助基準に関する検討会」は、2004年の社会保障審議会福祉部会に設けられた「生活保護制度の在り方に関する専門委員会」において、5年に1度発表される「全国消費実態調査」等に基づき、「生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡が適切に図られているか否か」を定期的に見極めることにする(本報告書1頁)と決められたのに従い、開催されたものである。

・ 政策について総合的に検討する前に、透明性を持って、客観的データに基づき統計分析を実施し、中立的に検証された分析結果を提示することは、民主主義国家において政策を論ずるうえで不可欠な作業であると考えられる。だが、わが国におけるこの分野では、必ずしも従来、こうした作業が、十分行なわれてきたとは言えない。今回、本検討会ではこうした客観的検証作業が実施されるとの趣旨を踏まえ、その意義を尊重することから、われわれは本検討会への参加を決意したものである。

・ それにもかかわらず、本報告書の検証結果が必ずしも国民に正しく伝わっておらず、ときにはその内容が誤解されることにより、客観的に実施された中立的な統計分析に対する信憑性が失われ、今後、このような手法をとることに対する国民の信頼感が得られなくなるのではないかと懸念される。これらの点を鑑み、国民に「本報告書の内容を正しく理解」してもらいたいとの考えから、本検討会委員5人全員の総意により、以下の説明を記すことにしたものである。

(生活扶助基準の水準について)

・ 本報告書は、1.検討の趣旨・目的等、2.生活扶助基準の評価・検証((1)評価・検証の方法、(2)生活扶助基準の水準、(3)生活扶助基準の体系)から成るが、とくに現在、注目されている「生活扶助基準の水準」の項目について、正しい理解を得るべく、以下の説明を加えることにする。

 (1)生活扶助基準額が高いかどうかを評価するには、言うまでもなく、何と比較するのか、その基準が必要であり、基準の取り方によって結論は異なる。

(2)その基準として、1984年以来、「水準均衡方式」が取られてきており、2004年の前回の報告書では、夫婦子1人の勤労3人世帯の年間収入階級第1・十分位(下位10%)の消費水準が用いられた(4頁三つ目の丸)。

(3)今回もこの基準に従えば、夫婦子1人の3人世帯については、平均生活扶助基準額は、わずかであるが、やや高め(金額にして1,627円の差、率にして1.08%の差、以下同じ)になっており、第1・五分位(下位20%)では、やや低め(Δ2,767円、Δ1.83%)になっている(5頁一つ目の丸)。

(4)夫婦子1人世帯について、第1・十分位の消費水準と比較することは、本報告書5頁に示されたア、イの分析結果から判断し、これを変更する理由は特段ないと考えた(5頁三つ目の丸の下から2行目)。

(5)ただし、夫婦子1人の3人世帯に関しては、この第1・十分位(下位10%)の消費支出は第3・五分位(中央値)の消費額の7割に達しているのに対し、単身世帯(60歳以上)では、この割合が5割程度にとどまっており、低い。したがって、単身世帯の生活扶助基準額について検討する場合は、第1・十分位を比較基準とすることが適当であるかどうかは、その消費支出が従来よりも相対的に低くなってしまうことに留意する必要があることが、全委員の総意により確認された(5頁脚注6)。

(6)単身世帯(60歳以上)の検討の結果では、第1・十分位(下位10%)を基準にすれば、現在の生活扶助基準額は高め(8,378円、11.77%)になっているが、上記(5)の理由を考慮し、仮に第1・五分位(下位20%)を基準に比較した場合、現在の生活扶助基準額は均衡した状態(186円、0.26%)にあると評価される(5頁二つ目の丸)。

(7)4頁の脚注4にも示されているように、相対的評価については、他の人との比較もあるが、同時に同一個人の過去との比較もある。経済学においては、最低生存費(必要消費額)は過去の消費に基づき習慣が形成されることにより、これまでの消費水準からも影響を受けることが示されてきたところである(4頁脚注4)。検討会においても述べられたように、この考え方に従うと、同じ生活扶助基準額であっても、それが引き下げられることによってその水準になった場合、最低生存費は高くなり、受給者の被る痛手は大きいと判断される。本報告書では、この点を踏まえ、全員の賛同を得て、「なお、これまでの給付水準との比較も考慮する必要がある」(5頁下から7行目)と加筆されたところである。このことは、第5回検討会でも述べられたように、「生活扶助基準額の引き下げについては、慎重であるべき」との考えを意図し、全委員の総意により、確認されたところである。

(8)ただし、こうした政策的判断は『全国消費実態調査』等の客観的データに基づき、統計分析を実施することにより評価・検証を行うとの本検討会の目的の範囲を越えており、今後、行政当局、あるいは政治の場において、総合的に判断されるべきものであると考える。

・ 以上は本検討会委員全員の総意により、まとめられたものであることを、念のため再度、申し添える。

・ 本報告書が国民により熟読されることを期待したい。

以上