グッドウィル:事業停止命令 働き口…募る不安 なぜ法律守らぬ 派遣、怒りの声

毎日新聞 2008年1月12日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/biz/news/20080112ddm041020048000c.html

 「働きたいときに働けるグッドウィルの存在はありがたかった。法律を守ってくれればこんなことにはならなかったのに」。厚生労働省が11日、日雇い派遣大手のグッドウィルに2〜4カ月の事業停止命令を出したことを受け、派遣労働者からは失業への不安や怒りの声が上がった。【市川明代、東海林智】

 東京都港区の男性(36)は11日夕、渋谷支店(渋谷区)に給与を受け取りにきた。2年前に腰を痛めて失業。「つなぎのつもり」で同社に登録し1年半、宅配などの仕事を続けてきた。昨年末に報道で同社の処分を知り、年明けの就職活動で廃棄物回収会社の契約社員に内定したが、腰に不安もあり「できれば日雇いの仕事を続けたかった」と言う。男性にとって同社の日雇いは最後の選択肢だった。1年ほど働いている30代の男性は「新しい仕事はまだ決まっていない。これから考える」と言葉少なだった。

 横浜市の支店に登録している女性(44)は「こんなにひどい働かせ方をしてきて、恥ずかしくないのか」と昨年末に代表権を返上した親会社「グッドウィル・グループ」の折口雅博取締役会長を批判。「グッドウィルは早くつぶれてほしい」と怒りをあらわにした。

 日雇い派遣労働者で作るグッドウィルユニオン(梶屋大輔委員長)などはこの日、渋谷支店前でビラを配布、港区の同社前や厚労省前で日雇い雇用保険の適用などを訴えた。労組は「事業停止で仕事がなくなれば、労働者の生活は深刻な事態になる」と、厚労省に▽長期勤続の労働者への賃金補償をグ社に指導する▽保険を使え、仕事にあぶれた際に手当を受給できるようにする−−などを求めた。

 組合員は「数千人が仕事を失う可能性がある。事業停止は当然だが、日雇い派遣制度を認めてきた厚労省はその責任を取り、生活・雇用の緊急措置を取るべきだ」と話した。

 同社は「処分を厳粛に受け止め、再発防止に取り組みたい。就労機会の確保に最大限努める」とコメント。関係者によると、同社は派遣元責任者を置いていなかった支店を統廃合するなど人員整理を進めており、社員にも将来を不安視する声が高まっているという。

 厚労省は、派遣先に対し就業中の労働者の雇用確保と積極的な仕事のあっせんを求めるよう同社を指導。都道府県労働局での相談受け付けを強化する。

 ◇舛添厚労相「働く人の権利きちんと守る」

 舛添要一厚生労働相は11日の閣議後会見で、グッドウィルに対する事業停止処分について「働く人の権利をきちんと守っていく。違法な派遣などは法に基づいてやめてもらう。今後徹底し、処分を厳格に下していく」と述べた。また、厚労省が見送りの方針を固めた労働者派遣法改正について「見直しを含めきちんと対応すべき時期に来ている。広範な意見を聞きながら、働く人の不利にならないよう再検討は考えないといけない」と方針転換もありうるとの姿勢を示した。【東海林智】

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 ■解説

 ◇労働者保護へ規制が必要

 グッドウィルに長期間の事業停止処分が出された。派遣労働者数が拡大を続ける中で、半ば放置されてきた派遣会社のずさんな法令順守体制に対し、厚生労働省が厳しい姿勢で臨むことを示した。

 背景には、日雇い派遣労働という雇用形態に対する社会の批判の声の高まりがある。労働者派遣法の度重なる規制緩和で派遣労働の市場は5兆円を超え、日雇い派遣も拡大した。その裏で、禁止されている建設や港湾労働への派遣、給与からの不当な天引き、二重派遣労働災害隠しなどが横行した。労働者の告発などで明らかになり、賃金面も含め「安心して働ける仕事ではない」との認識が急速に広がった。

 一方で、労派法の見直しについて厚労省は、日雇い派遣の禁止など規制強化を求める労働側と使用者側の意見の隔たりが大きいとして次期通常国会への改正案提出を見送った。今回の処分はそうした中で、業界全体の体質改善を促す狙いが大きいとみられる。

 しかし、業界に体質改善を促すだけで十分なのか。労働人口が減少する中、若年者を中心に労働力を使い捨てにするような働かせ方のままで良いのか。法改正を含めた労働者保護の視点での規制が求められる。【東海林智】