定額給付金公開質問状

生活保護問題対策全国会議とホームレス法的支援者交流会は、内閣総理大臣に対して公開質問状を送りました。

公 開 質 問 状


2008年11月17日


内閣総理大臣 麻生太郎 殿


        生活保護問題対策全国会議     代表幹事 尾藤 廣喜
                        (連絡先)〒530-0047 大阪市北区西天満3-14-16
                             西天満パークビル3号館7階あかり法律事務所
                             弁護士 小久保 哲郎(事務局長)
                            電話 06-6363-3310 FAX 06-6363-3320
        ホームレス法的支援者交流会    共同代表 後閑 一博
                         同上   木原万樹子


謹啓 日ごろから、日本国の発展と市民生活の向上のため力を尽くしておられる貴職に対し、心から敬意を表します。


 さて、貴職は、追加経済対策として、1人当たり12000円、18歳以下と65歳以上は8000円加算、総額約2兆円の「生活支援定額給付金(以下、定額給付金)」の支給を実施しようとされています。しかし、報道を見る限り、この「定額給付金」の支給対象や支給方法は未だ不明確であり、所得制限については事実上実施せず高額所得者も受給が可能となる方向のようです。
 しかもこの制度は、いわゆる「ホームレス」「ネットカフェ難民」などの「住所不定」状態にある人たち、DV被害を受けて住民票を置いたまま逃げているDV被害者、また在日・滞日外国人など、本当に生活に困窮している弱い立場におかれた人々は行き渡らず、真の貧困層にとっては使えない制度ではないかとの疑念を抱かざるを得ません。
 さらに、この間の世界的不況の直接的被害者と言える雇い止め(いわゆる「派遣切り」)された派遣労働者で派遣会社の寮を追い出されるに至った者も、寮を追い出されて「住所不定」状態になったがゆえに「定額給付金」の対象から外される、という本末転倒な事態をもたらすおそれがあります。遠く離れた実家に住民票を置いてある者も、往復何万円もする交通費をかけて12000円を受け取りに帰れ、と言うのでしょうか。


 とりわけ政府は、「骨太の方針2006」で社会保障費を5年間で1兆1000億円削減(抑制)する方針を閣議決定し、与党の一部および厚生労働省を含む多くの反対にもかかわらず、毎年2200億円の削減(抑制)を断行してきました。2002年の3000億円削減に始まり、2003〜2008年まで毎年2200億円削減によってこれまで削り取られてきた医療・年金・雇用保険生活保護等々の関係諸費用は1兆6200億円に上っています。
 その結果、生活保護利用者をはじめとする最も生活に困窮している層の生活はギリギリと切り縮められ、北九州餓死事件・妊婦死亡事件などの悲惨な事件の発生、国民健康保険資格証発行による無保険の子の存在など、日本社会全体を深刻な不安の底に突き落としてきました。
 しかしこれとても、今回一気にバラまかれる2兆円という金額には及ばない、という事実は、私たちを唖然とさせます。しかもそれが真の貧困層に行き渡らないのだとすれば、政府のやりたいことは本当に「生活支援」なのか、疑問を抱かざるを得ません。政府は、いったい誰の生活を支援したいのでしょうか?


 貴職にはご理解いただけないかもしれませんが、いま人々を覆っている不安は「これから、自分たちの生活、自分の子や孫の生活はどうなってしまうのだろう?」という将来不安、日本社会のシステムそのものに対する不安であり、一過性のバラマキで解消されるような性質のものではありません。
 そのことは、今回の「定額給付金」の景気浮揚効果(消費拡大効果)がきわめて限定的になるだろうという複数のエコノミストの分析からも明らかです。
 安心して暮らせる社会が壊されていく中で、わずか数万円を受け取ったからといって、誰が気軽に買い物できると言うのか。


 ついては、ご多忙中とは存じますが、末記の質問事項について、本書面到達後2週間以内にご回答をいただきますよう、お願い申し上げます。


【質問事項】
1 (1)ホームレス生活を余儀なくされている人々、(2)「ネットカフェ難民」といわれる人々、(3)DV被害や借金の取立てなどを逃れて住民票登録を異動させていない人々、(4)いわゆる「派遣切り」によって派遣寮を追い出された人々など、住民票登録が消除されていたり、住民票登録地に異動できない事情のある人々は、どのようにして「定額給付金」を受け取ることができますか。(1)ないし(4)の類型ごとに受給のための具体的方策をご教示ください。
  仮に、これらの人々に手続上受給できない人が生じるとすれば、上記のように最も生活困窮している人々が受給できない制度には大きな問題があると考えますが、いかがですか。
 (理由)1999年の「地域振興券」のときをモデルに金券の「引換申請券」を住民登録地に郵送することが検討されているとの報道がありますが、このように住民登録されていて、登録地に居住していることを前提とすれば、上記(1)ないし(4)のような最も困窮している人々が事実上受給できなくなるのではないか、と考えられるため。


2 上記(1)〜(4)の方たちへの支給が技術的に困難なのであれば、2兆円のうちの相当額を「緊急特別入居・生活支援給付金」として、安定した住居を持てないがゆえに常用雇用への転換を試みることも困難な人たちへの出張給付を試みられてはいかがでしょうか? 10%の2000億円でもあれば、相当数の人たちが安定した住居を得ることができます。お金のかからない方法としては、雇用促進住宅の臨時貸出や公営住宅の活用も考えられるでしょう。
  住宅への権利は、人間にとってもっとも基本的な権利の一つです。所得の高い人ほど恩恵の大きい住宅ローン減税を過去最大規模で実施するなら、同時に真の住宅困難者に対する手厚い支援があってもいいのではないでしょうか。


3 生活保護利用者が「定額給付金」を受領した場合、一時所得として「収入認定」の対象となり、その分保護費が減額されることになりませんか。
(理由)生活保護の実施要領上、「恩給、年金、失業保険金その他の公の給付については、その実際の受給額を(収入として)認定すること」とされていることからすれば、「定額給付金」についても収入認定されることによって、実質的に手取り分がなくなるのではないか、と考えられるため。


4 特別永住者、永住者、定住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等をはじめとした在日・滞日外国人の人々は「定額給付金」の支給対象となりますか。
仮に、ならないとすれば、日本人と同様に生活に困窮し、また同様に国内で消費活動を行っている外国人を排斥する理由は何ですか。
 (理由)1999年の「地域振興券」の際には、在日外国人のうち「特別永住者」と「永住者」のみが支給対象とされ、難民として日本が受け入れた在日ベトナム人などの多くの外国人が支給対象から除外されたことからすれば、今回も同様の取り扱いとなる可能性があるため。


5 これを機会に、5年間で1兆1000億円の社会保障費削減を決定した「骨太の方針2006」を撤回するおつもりはありませんか? 緊急的・一時的な景気対策と恒久的・「持続可能な」社会保障システムの確立は別問題とおっしゃるかもしれませんが、そうであるがゆえになおさら、今回の「定額給付金」は「焼け石に水」に終わってしまうのではありませんか?
人々の将来に対する生活不安を取り除き、安心して消費できる環境を取り戻すことこそ、真の景気対策ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。