定額給付金、私たちは? DV被害者、ホームレス…(朝日新聞関西)

朝日新聞関西 2008年11月29日
http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200811290081.html

 定額給付金はきちんと行き渡るのか。総務省が示した住民票に基づく支給方法の原案が、ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者やホームレスらの間に不安を広げている。迷走を続ける制度は、まだ課題を抱えている。


 ■DV被害者 

 「家を出た被害者は極限まで追いつめられる。そんな厳しさをわかっていないから、困っている人が利用できない施策を平気で出すのだろう」。女性の経済自立を支援するNPO「WANA関西」代表の藤木美奈子さん(49)は麻生首相を厳しく批判した。

 かつて夫からDV(配偶者や恋人による暴力)を受け、家を出た。夫に居場所を突き止められるおそれがあるため、新住所に住民票は移せない。就職もままならず、息を潜めるような生活を送った。

 こうしたDV被害者は多く、住民票に基づいて給付金が支給されれば、世帯主である「加害者」が受け取ることになる。経済対策として打ち出された給付金だが、貧困層にとっては「生活支援」の側面もあり、死活問題だ。

 市民団体の生活保護問題対策全国会議(事務局・大阪市北区)は「本当に支援の必要な人が受け取れない」と17日に麻生首相へ公開質問状を出したが、返答はない。代表幹事の尾藤広喜(ひろき)弁護士は「弱者を排除するシステム。行政の在り方が問われている」と話す。


 ■ホームレス

 大阪市西成区のあいりん地区。三つの建物に3千人以上の日雇い労働者が住民登録していた問題が発覚し、大阪市は昨年3月、居住実態がないと判断した約2100人の登録を削除した。簡易宿泊所やシェルターを転々とする竜山吉三郎さん(66)もその一人。「一カ所に住める収入はないから、給付金はあきらめるしかない。カップ酒の値段も知らんだろう首相が全員に配るといっても無理がある」


大阪市の担当者も困惑する。住民票と実際の居住場所が異なる人への給付について、総務省原案は「現住所での正しい住民登録が必要」と記すだけ。「このままでは、住民登録を削除された人が窓口を訪れても対応できない」


 ■日系定住者

 3千人近い日系ブラジル人が住む滋賀県長浜市。90年の出入国管理法改正で、南米に渡った移民の子孫である日系2、3世とその家族には日本の定住者資格が認められる。総務省原案は定住者を給付金の支給対象としたが、日本語の読み書きが不自由な人もいる。制度を理解して正しく手続きができるのだろうか。

 同市企画調整課の担当者は「給付金を取り扱う課も決まっておらず、日系人への告知方法までは正直、考えが及ばない」と明かす。同じく日系人が多く暮らす滋賀県甲賀市は、12月4日に県が開く原案説明会を聞いてから対応を考えるといい、担当者は「どんな混乱が起きるか想像もできない」と戦々恐々だ。