福祉の財源―先送りはもう許されぬ

朝日新聞社説 2008年12月11日
http://www.asahi.com/paper/editorial20081211.html

 基礎年金の国庫負担割合を、予定通り来年4月から2分の1へ引き上げることがようやく決まった。

 だが、懸案はまだ半分も解決していない。裏付けとなる「安定財源」がまったく示されていないからだ。こちらの方がはるかに難問だ。

 引き上げに必要な年間2.3兆〜2.5兆円の資金を、政府・与党は来年度、財政投融資特別会計のいわゆる「埋蔵金」からひねり出すとしている。これは事実上の国債発行であり、一時しのぎに過ぎない。2年目以降はどうするつもりなのか。

 年金だけではない。高齢化が進むのに伴い、医療や介護にかかる費用もこれから膨らんでいく。

 社会保障費の抑制政策のもとで、医師や介護の担い手の不足といった「ほころび」が深刻になった。これを直すのにも、お金が必要だ。

 政府の社会保障国民会議は、社会保障の支出が国と地方合計で08年度の27兆円から、15年度には43.5兆〜44.3兆円へ急増すると試算している。

 これらをどうやってまかなうのか。その全体像を示すのが、麻生首相がとりまとめを指示した税制改革の中期プログラムの役割だ。しかし、こちらの雲行きが、どうも怪しい。

 次の総選挙を意識して、与党内では、たとえ将来のことでも増税を打ち出すのはできるだけ避けたい、という空気が強まっている。まとめ役の与謝野経済財政相は「10年代半ばに消費税率を10%に」が持論だが、税率を盛り込むのは難しい情勢だ。

 引き上げ時期についても、首相は「3年後に消費税の引き上げをお願いしたい」と明言していたが、求心力の低下は目を覆うばかりだ。

 もちろん、世界不況の足どりが速まるなかで、先行きを見通しにくいのはわかる。が、それを口実に財源問題を棚上げしたのでは、国民の不安はさらに高まる。財源の裏付けがなければ、やがて社会保障の中身を削られてしまうと恐れるのは当然だ。

 小泉政権以来、「税制の抜本改革」を何度も約束しながら、いつも先送りしてきた。増税すると選挙で落ちる、と与党議員が反対するからだ。

 目標を定めても、その時の経済状況しだいでは先送りする必要が生じるかもしれない。だがそれは、いま目標づくりを避けて通ってもいいということではない。負担増から逃げ続ける、その姿勢にこそ問題がある。

 「私は逃げない」と麻生首相は言うなら、説得力のある目標を掲げて見せたらどうか。さらにそれを閣議決定し法案として国会へ出すことだ。

 民主党にとっても、社会保障の将来ビジョンを示すいい機会ではないか。安心の設計図を政党が示し競い合うことを、国民は求めているはずだ。