東奥日報「天地人」

東奥日報 2009年1月18日(日)
http://www.toonippo.co.jp/tenchijin/ten2009/ten20090118.html

 大阪市住吉区のマンションで元派遣社員の四十九歳の無職の男性が、栄養失調状態で死亡しているのが発見された。死後一カ月が経過。室内にあった所持金は九十円。冷蔵庫は空っぽだった。

 NPO法人自立生活サポートセンターもやい事務局長の湯浅誠さんは、日本は一度転んだらどん底まですべり落ちていってしまう「すべり台社会」になっていると指摘する(岩波新書「反貧困」)。

 湯浅さんは日比谷公園に開設された「年越し派遣村」の村長もした。派遣村には、派遣の打ち切りなどで、仕事と住居を同時に失った労働者ら約五百人が集まり、年末・年始をしのいだ。その後、生活保護を申請し、アパートを見つけるなど、自立の道を歩もうとしている。

 一方で派遣村について「派遣切りに遭った労働者だけでなく、以前からの失業者やホームレスが混じっていた。趣旨と違う」との指摘がある。そのような事実もあったようだが、失業者やホームレスも元はといえば、職があったのに失い、住まいをなくした人たち。逆の見方をすれば、派遣切りで失職した労働者とホームレスとの距離が、すべり台社会で近くなっているといえる。

 失業者に対しても「頑張りが足りない」との批判も聞く。だが湯浅さんはこの自己責任論が、失業者に「人の世話になってはいけない」と思い込ませ、抜き差しならない状態まで追い詰める原因になっているという。それにしても後に施設を開放したとはいえ、政治と行政は何と鈍感だったことか。