生活保護の減額 「生存権保障」崩壊の恐れ(神奈川新聞)

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神奈川新聞社説 2007/12/04

 厚生労働省は、来年度の予算編成に向けて生活保護費のうち、食費や光熱水費に充てる生活扶助の基準を引き下げる方向で検討している。ケースによって保護を受けていない低所得者層が保護世帯より生活費が下回っているため、勤労意欲の減退につながらないよう是正が必要というわけだ。


 確かに、年金生活者や、働いても楽な生活ができないワーキングプア層の中には、保護世帯より所得が下回っている現実がある。国の生活扶助基準の設定は、一般国民の消費水準と比べて均衡を図る考え方に立ち、国民の消費動向や社会経済情勢を総合的に判断して改定するとされている。要するに、低所得者層の所得の最低ラインが引き下がってきたから、扶助基準もそれに合わせて見直すべきだとする理屈である。


 時々の国民の暮らし向きに、扶助基準が規定されてくるのは当然だろうが、実際に生活保護を受ける人たちの現実の生活を直視し、それが憲法でうたう「生存権保障」にかなうか、といった視点からの検証が国の検討から欠落してしまっているのが気になる。


 生活扶助は食費を中心とした第一類、光熱水費などの第二類からなり、第一類は世帯人員が増すにつれ支給額が増える。そのため単身者で自炊もままならないお年寄りの場合は、現行基準でも厳しい生活といわれる。これを補う高齢加算は昨年三月に廃止された。


 生活保護を受けるある男性(77)=横浜市在住=の実質生活費は、受給額から光熱水費、住宅の共益費などを除いて月約六万円。自炊ができない。一日二食分の市販弁当とお茶などを買えば一日分の生活費二千円はほぼ尽きる。「これ以上(生活扶助を)減らされたら一日一食かな」と男性。服や運動靴はこの数年買っていない。


 男性は燃料費名目の冬期加算(月額三千九十円)も、必要な雑貨品購入や理容代に回し、寒くてもストーブをつけない。実態を知る民生委員は「石油高騰の影響から、今冬は凍死するお年寄りだって出かねない」と心配する。


 中流層が裕福、貧困の二層に急速に分かれる社会にあっては、生存権を保障するセーフティーネットが欠かせない。「健康で文化的な最低限度の生活」の中身が議論され、例えば「バランスのいい栄養価の一定の食事が一日に三回取れる費用」といった具体的な最低限度の生活ラインを示すべきだろう。生活扶助の基準はその保障ラインであり、それよりも低い低所得者層にも救済策が必要だ。


 厚労省は来年度予算で社会保障費の伸びの二千二百億円抑制を迫られており、診療報酬の薬価引き下げなどでは足りず、生活保護費まで手をつけようとしている。受給者の生活苦の実態を踏まえない扶助基準引き下げは、生存権保障の崩壊につながりかねない。