生活保護費減額/低所得層対策こそ本筋(沖縄タイムス)

2007.12.03 沖縄タイムス社説
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20071203.html#no_2

 社会保障費の抑制が叫ばれる中で、厚生労働省生活保護費の基準を見直し、減額する方向で検討している。

 生活保護は「最後のセーフティーネット(安全網)」としての役割を担っており、先に「減額ありき」では本末転倒の議論になりかねない。

 厚労省生活保護費のうち、衣食の費用など生活扶助を見直す考え。生活保護世帯の生活扶助が低所得世帯の生活費を上回っている事例があり、「ワーキング・プア(働く貧困層)」などの勤労意欲を減退させかねないというのが主な理由のようだ。

 同省の調査によると、収入が全世帯のうち下から一割に当たる低所得世帯では、夫婦と子供一人の勤労世帯、六十歳以上の単身世帯のいずれの世帯でも、生活扶助が生活保護を受けていない世帯の生活費を上回っていた。

 四人以上の世帯も、非保護世帯の生活費より高めになっていたという。

 しかし、低所得世帯に合わせて生活扶助を引き下げていくのでは、生活保護の制度の趣旨を見失うことになりはしないか。生活保護費受給世帯の実態を踏まえた丁寧な議論が必要だ。

 憲法二五条は国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を保障している。格差や貧困が社会問題になっているさなかであり、安全網の在り方をめぐる幅広い議論が重要になる。

 生活保護費の生活扶助を引き下げよりも、最低賃金制度の拡充などによって低所得世帯をてこ入れしていく政策を優先していくべきではないのか。

 先の参院選では格差問題も争点になり、与野党逆転の原動力になった。多くの国民は格差の是正を求めている。

 生活保護の問題では不正受給防止など解決すべき課題も残る。減額は裁量の範囲内としても、財政事情を理由に「最後のセーフティーネット」にやすやすと踏み込んでいいのだろうか。

 基準見直しは国民健康保険や就学援助など各種減免措置にも連動して影響を及ぼす。生活保護の安全網としての機能の喪失を懸念する声も出ているだけに、慎重な対応を求めたい。