フェスタ報告:シンポジウム

税制と社会保障―弱者にとってやさしい制度とは

コーディネーター:岡田広行(週刊東洋経済)、パネリスト:浦野広明(立正大学)、藤原千沙(岩手大学)、司会:赤石千衣子

 岡田さんからは、税の徴収や社会保険の徴収が厳しさを増し、多重債務化している実態が報告された。浦野広明さんからは、憲法に基づいた税の徴収をすべきであること、税の徴収が弱者に厳しく、金持ちに甘くなっている実態が話された。藤原さんは、日本の社会保障費はほとんどが高齢者に使われている。税を払い、社会保障に、特に子どもにもっとお金をまわすべきだとし、所得再分配という軸で、特に子どもに貧困が起こっているとレポートした。質疑で消費税や、給付付き税額控除についても一定議論が起こり、税と社会保障への関心が高まっていることがうかがえた。教室は満席となり、50部刷った資料は足りなくなった。(赤石)

労働と貧困

コーディネーター:竹信三恵子朝日新聞社)、パネリスト:高木剛(連合会長)、関根秀一郎(派遣ユニオン書記長)、河添誠(首都圏青年ユニオン書記長)

 河添さんは、非正規で働く若者の貧困の実態、雇用が崩壊する中で社会保障が機能していない現状を報告し、労働者派遣法の改正のほか、短時間労働者も社会保険雇用保険に加入できるようにするなど、困窮者の生活を支えるセーフティネットの構築の必要を説き、労働組合をはじめ、NPOや市民団体などが幅広く連携し、貧困に陥った人が声を上げられる仕組みを作っていくことが重要であり、「労働基準法さえ守られず毎日泥沼の中で働く人にブル−シートを作っていくことが必要だ。」と訴えました。
 関根さんは、日雇い派遣の実態を告発し、労働者派遣法について、まず日雇い派遣の禁止が急務であり、3割から5割にも及んでいる高額なマージン率に上限規制を設け、派遣の対象業務を1999年以前の専門的業務に限定し、登録型派遣を廃止するとともに、期間の定めのない直接雇用と均等待遇の原則を確立する必要があり、「労働が劣化しぼろぼろの状況にある」現状を打開するため、組合は路線潮流を云々することを止め、正社員と非正規社員が手をつなぎ、すべての労働者が連帯する必要があると訴えました。
 高木会長は、貧困・格差拡大の最大の要因は雇用問題にあり、「働き方のルールをねじ曲げ、非正規労働者をこんなに増やしてきた責任は経営者にある。引き金を引いた経営者に反省がない。見て見ぬふりをしてきた労働組合にも従犯の責任がある」とし、「経営者は、使い勝手のよい働き手を増産したい一心であり、さらに労働規制の緩和を求めている。いったい人間性をもって働くという観念はどこにあるのか。」「企業は正社員の横道探しをしている。派遣がだめなら、偽装請負。それもだめなら、有期契約社員とする。モグラたたきだ。」と警告し、労働者派遣法は1985年の制定時の内容にまで戻し、最低賃金を大幅に引き上げ、専ら派遣の問題やバイク便などの一人親方型請負の問題にも取り組む必要があるとし、「貧困を語らない政治家はいらない」「連合には政策として実現していく覚悟がある」と決意を述べました。
 最後に河添さんが高木会長にヒンキーバッジを贈りました。(猪股)

海外特派員が見た日本の貧困―ここがヘンだよ! 日本の「貧困」と「報道」!

 英国インデペンデント紙のマックニール記者、ドイツ・ハンデルスブラット紙のマイヤー記者、韓国SBSソウル放送のユン記者らが参加。自国での「貧困」報道の扱われ方や底流にある考え方を紹介しながら、自己責任論を始めとする日本における貧困問題の扱われ方が国際的には特殊であることを浮かび上がらせました。日本で取材する特派員たちは取材を通して「日本では貧困問題は個人の問題とされていることへの違和感」を共通して持っていました。イギリスやドイツでは貧困問題、特に貧困層の増減について年中ニュースのテーマになり、政党同士の争点にもなっています。最近ではドイツで最低賃金問題、イギリスでニート対策で義務教育延長が主要テーマになりました。両国では新聞やテレビで貧困について頻繁に報道が行われ、貧困に陥った時にもらう生活保護や失業手当についても「恥を感じることはなく誇りを持ってもらっている」という報告がありました。パネリストのイギリス人記者が「かつて堂々と生活保護をもらっていた」と発言すると会場からどよめきが起こりました。ドイツでは毎月、貧困層の数が政府統計で発表される仕組みになっているという点も驚かされました。日本と同じ東アジアの韓国でも「貧困問題は社会の問題であり、解決するのは政治家の責任」とするのが一般的な考え方と報告されました。
 他方、経済のグローバリゼーション化の流れは各国でも看過できないものになっていてそれぞれで「雇用の非正規化」など規制緩和に向けて進む現状があるのでアメリカや日本のようにならないように注意深く報道している、という感想もありました。日本で蔓延する「貧困になったのは本人のせい」だと政治や社会が手を差しのばさなくてもよいという自己責任論については、政治や社会の責任をあいまいにするので問題だ、もっとメディアがきちんと伝えるべきという指摘がありました。会場からは生活保護が恥だと受けとめられない社会にするにはどうすればよいのか? という日本人記者などから質問が相次ぎました。(水島)

どうする? 子どもの貧困―福祉と教育をつなぐ

 日本の反貧困政策と実践のなかで、「子どもの貧困」については議論の蓄積も充分でない現状にあります。そこで、子どもの貧困の現実を共有し、その克服のための政策上の争点と実践の方向性や課題を討議することを目的としてシンポジュウムを開催しました。
 まず、学校事務職員の方からは、義務教育は無償とされながらも実際には修学旅行や制服代など高額な諸費用が必要であること、一方、就学援助があるといえどもまだ敷居が高い制度であることなど、保護者や子どもの生活への皺寄せの実態が報告されました。生活保護世帯の子どもの高校進学支援のための勉強会スタッフからは、教師や大人が諦めずに粘り強く子どもに関わっていくことの必要性、高校進学後の継続した支援の重要性が指摘されました。児童相談所の職員からは、子ども虐待が「家族の問題」「心の問題」とされる風潮について、「貧困をなくせば虐待をなくしていける」として、子ども虐待の背後にある経済的貧困、さらには社会福祉制度そのものの貧困について言及されました。最後に、今後の方向性として、?マクロな政策レベル、?教育や福祉など子どもに関わる現場のレベル、?子どもの声を聴き取る日常生活のレベルでの総合的なアプローチの必要性について課題を提起し、閉会となりました。大勢の方にご参加いただき、この問題への関心の強さにちからをいただきました。(湯澤)