女性の生活苦、深刻化(読売新聞)

読売新聞 2009年5月26日
http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/mixnews/20090526ok03.htm

 相談会「かたり・れん」では、女性だけで仕事や生活の悩みについて語り合う(東京都渋谷区で)派遣切り…「明日はホームレスかも」
景気の悪化は女性の生活も直撃している。仕事を失い、住む場所に困る女性もいるが、相談窓口や支援活動に女性はあまり訪れず、問題は表面化しにくいのが実情だ。女性の困難に寄り添った支援が求められている。(月野美帆子)


 事務系の派遣社員として10年以上働いてきた東京都内の女性(45)は、最近、終夜営業の飲食店やネットカフェで過ごすことがある。


 以前は正社員として働いていたが、得意の英語を生かして派遣の働き方を選んだ。年収は350万円以上あったが、景気悪化と共にあっけなく契約を打ち切られた。金融危機が深刻化した今年2月以降は、事務系派遣の仕事が全く紹介されなくなった。パート、派遣を問わず求職しても、10日以上仕事が見つからないこともある。1日限りの仕事や製造現場への派遣も引き受けるようになった。「明日にはホームレスかも、と思うことがある」


 収入が減り親族宅に身を寄せているが、仕事が長引き終電を逃せば、終夜営業の店で朝を待つ。「働きたいのに仕事がない。手足を伸ばして眠り、朝起きたら仕事に行く普通の生活を送りたい」と話す。


 女性の路上生活者で作るグループ「ノラ」のいちむらみさこさんによると、この女性のように、生活困難に陥り、終夜営業の飲食店で夜通し過ごす女性が、年明け以降増えているという。


 いちむらさんは定期的に終夜営業の飲食店を訪れ、これらの女性に声をかけ、相談を呼びかけるチラシを渡している。「徹夜で遊んだり深夜勤務を終えて始発を待ったりする人とは、たたずまいが違うのでわかる。家はあっても家族関係などに事情を抱え、家に居づらくなっている人もいる」といちむらさん。


 4月半ばの週末、東京・渋谷駅周辺にある終夜営業のファストフード店を訪れ、終電から始発までの時間帯に、30〜60歳代と見られる7人の女性にチラシを渡した。1月末に同じ店舗を訪れた際には4人だったという。テーブルに突っ伏して寝ていた50歳代の女性は「いつもは別の店にいる。掃除のために出て行くよう言われたので、こちらの店に来た」と話し、チラシに見入っていた。


 経済状況の悪化と共に、女性の生活困難は顕在化している。国の男女共同参画会議は3月、女性の貧困実態や原因についてまとめた中間報告の中で、女性に多い非正規雇用の雇い止めが進行していることなどから「女性の生活困難のリスクが高まっている」と指摘した。女性は出産・育児などで就業継続が難しく、再就職しても非正規雇用を繰り返す傾向がある。そして女性の相対的貧困率は30歳代以降、どの年齢層でも男性より高く、高年齢になるほど男女差が開くと述べている。


 「働く女性の全国センター」の伊藤みどりさんは「『派遣切り』や『ネットカフェ難民』などと言うと男性のイメージが強いが、派遣労働者の6割は女性で、女性も同じような苦境に立たされている。ただ、相談窓口や支援活動は男性中心で、女性が利用しにくいという声も聞く。女性の困難に目を向けた支援が必要だ」と指摘する。


 相対的貧困率 国民を所得順に並べ、真ん中の順位の人の半分以下しか所得がない人の割合。


 ニート、セクハラ、夫の暴力…総合的な支援窓口を女性の貧困が顕在化している流れを受け、困難に寄り添った支援策が各地で始まっている。


 埼玉県の男女共同参画推進センターは生活保護や住民税減免を受けるなど、経済的に困っている女性に対し、今年度から新しい支援策を始める。自立の意欲が高い女性を相談員が1人ずつ担当し、生活の立て直しや就職活動、就労後の悩み相談など一貫した支援を行う。「講座を開いて終わりではなく、息長く支援し自立につなげたい」と担当者。


 横浜市男女共同参画センター横浜では、29日から15〜39歳の女性ニート若年無業者)を対象とした全16回の「ガールズ編『パソコン+しごと準備』講座」を始める。


 同市男女共同参画推進協会が4月にまとめた女性ニートについての調査で、「学校でのいじめ」「家族からの暴力」など、過去に困難な体験をいくつも経験していることが浮かび上がった。このため、就労支援にとどまらず、当事者同士の話し合いや自己表現講座、メーク講座など、きめ細やかなプログラムを用意している。


 ノラのいちむらさんが参加する「女性と貧困ネットワーク」は、女性だけの相談会「かたり・れん」を東京都内で定期的に開いている。13日に開いた会では25人が集まり、仕事や住まいなどについて思いを語り合った。


 女性の貧困はこれまで見えにくかった。立教大学教授の湯澤直美さん(社会福祉学)は「女性は親や夫に経済的に依存できる立場とみなされ、賃金が低くても雇用が不安定でも、問題とされてこなかった」と指摘する。


 だが男性にも及んだ雇用不安や離婚の増加などにより、女性の貧困が顕在化してきた。


 湯澤さんは「女性は子育てや介護の責任が重く、人生選択が制約されている。解雇だけでなくセクハラや夫の暴力なども絡んで、貧困の背景は複雑化する。しかし窓口は雇用や子育てなど縦割りで、問題が十分に受け止められていない恐れがある。総合的に女性の問題に対応できる窓口と、相談員の養成が急務」と話している。