生活保護 安易な引き下げは疑問(信濃毎日新聞)

信濃毎日新聞社説 2007年12月5日

 厚生労働省生活保護水準の引き下げを検討している。低所得者世帯の生活費と比べ、生活保護世帯への生活扶助が上回っているケースがあることを根拠にしている。

 ちょっと待ってほしい。生活保護は、憲法が定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づく制度である。暮らしを守る最後のセーフティーネット(安全網)だ。

 一方、働いても生活に困っているワーキングプア(働く貧困層)と呼ばれる人たちの増加は、格差拡大を反映した社会問題である。本来ならば最低賃金の底上げを図るなどして、低所得者層を減らし、健康で文化的な生活ができるようにすることを目指すべきだ。相対的な比較を持ち出して、生活保護費を引き下げるというのは筋が違う。ものさしの使い方を間違っている。

 全世帯の中で収入が下から1割に当たる低所得世帯では、夫婦と子ども1人の勤労世帯、60歳以上の単身世帯のいずれにおいても、生活保護費のうち食費など生活費に当たる生活扶助が、生活保護を受けていない世帯の生活費を上回っている−。厚労省が引き下げの根拠とするのはこんな調査結果だ。

 “逆転現象”は低所得者の勤労意欲を減退させかねない、との懸念も表明している。

 ここで考えたいのは、生活保護水準の引き下げが逆に低所得者の足を引っ張る結果を招きかねないことだ。先ごろ成立した改正最低賃金法には生活保護との整合性を配慮することが明記されており、生活保護水準が下がることで最低賃金の底上げも勢いを失う恐れがある。

 日本の最低賃金主要先進国の中では最も低い水準だ。大企業は潤い、中小企業は低迷状態が続く。企業は正規社員を増やす代わりに賃金を、パート社員を増やすことで人件費を抑制している。雇用が不安定になれば低所得者生活保護世帯が増えるのは当然である。

 厚労省生活保護水準の引き下げを考え出したのは、2008年度予算で社会保障費の伸びの抑制を求められているからだ。

 生活保護をめぐっては不正受給の増加など、問題も多い。暴力団関係者が受給しているケースなどが報じられ、運用への疑念を生じさせている。早急な是正が求められる。

 そうでないと生活保護制度に対する国民の理解も深まらない。一部で問題となった支給窓口となる行政の不誠実な対応も改善が必要だ。

 基本はあくまで、暮らしを保障するセーフティーネットとしての役割を踏まえ、機能をきちんと維持していくことである。安易に手をつけてはならない。